甲州弁の「ずら」と「ら」の違いは?
甲州弁で有名なものと言えば、「ずら」ではないでしょうか。
ずらの意味は、「〜だろう」という推量と、「〜でしょう?」という疑問文の二種類あり、アクセントで使い分けます(意外と繊細です)。

東京の大学で出会った友人に甲州弁について尋ねられ、ひとまず「ずら」を差し出すと、「じゃあ、ズラでしょ? と聞くときは“ズラずら”なの?」といったんいじられます。
使ったことはないですが、「ズラずら」です。
この「ずら」は、普通に山梨県民は若者でも使っていますが、この響きが、甲州弁がブサイクな方言と言われる代表的なゆえんと言ってもいいかもしれません。
一方、似た言葉で、「〜ら」もあります。
使うタイミングは基本的には一緒で、「ずら」の短縮バージョンと考えてもよいのですが、比較すると、両者には微妙なニュアンスの違いがあります。
以下は、疑問文的に使用する場合です。
〜ずら?・・・〜するでしょ?
〜ら?・・・〜するでしょ?
表面上は一緒です。ただ、心を顕微鏡で覗くと、その違いが見えてきます。
〜ずら?・・・〜するでしょ?(確信の度合い「中」)
〜ら?・・・〜するでしょ?(確信の度合い「高」)
どちらも意味的には同じ「(当然)〜するでしょ?」といったニュアンスの方言ですが、内面に秘める確信の度合いが、かすかに違います(*個人的な感想です)。
後者は、ほとんど誘いに近く、肯定的な反応を待ち望んでいる感じが結構込もっています。
具体的な使い方の例です。
<A>「飯、食っていくずら?」
<B>「飯、食っていくら?」
Aの場合、意味としては「(当然)飯を食っていくでしょ?」ですが、それでも、もしかしたら食っていかない可能性も考慮しながら相手の選択を待っています。
一方のBの場合、「(当然)飯を食っていくでしょ?(いこうよ)」と勧誘のニュアンスが加わります。
だから厳密に言うと、<B>「〜ら」の場合は、基本あいだに「、」も入りません。
<B>「飯、食っていくら?」→「飯食ってくら?」
この両者の違い(確信の度合い)は、推量で使う場合も同じです。
<A>あの子ならきっと大丈夫ずら。
<B>あの子ならきっと大丈夫ら。
<A>の確信の度合いは少し低めです。だから「きっと」があっても不自然ではありません。
<B>では、「きっと」はないほうが自然かな、という気がします。「あの子ならだいじょぶら」という確信ゆえの軽さ、みたいなニュアンスがあります(イントネーションによっては特に興味がないゆえの軽さも表現できます)。
こうした違いを普段から意識して使っているわけではありません。強引に違いをあぶり出してみたら、こういうことなのかな、といった程度で、どっちでもおおむね通じます。
少しだけ自信なさげな「ずら」と、ちょっと前のめりな「ら」。甲州弁は語尾がほんとうに繊細です。
