山梨の方言(甲州弁)

山梨県の方言の特徴は「なまりがない」と「語尾が豊富」

山梨県の方言の特徴は「なまりがない」と「語尾が豊富」

山梨と富士山

地方出身者が県外に出てよく話題になることの一つが「方言」ではないでしょうか。

僕は大学進学を機に上京したのですが、頻繁に方言について尋ねられました。「甲州弁」のイメージがほとんどないらしく、みんなどういう感じなのかさっぱり分からないようでした。

山梨の方言の特徴を説明する際に、まず音的な「り(なまり)」がそれほどない、ということが挙げられます。

東北や九州、関西などは、結構イントネーションで方言だと分かりますし、なまりが地方の言葉の一つの「味」ですが、山梨にはあまり目立ったなまりはありません。

もちろん一言で「方言」と言っても住んでいる地域や世代によって違いますが、祖父母と話していてもイントネーションやアクセントのなまりがすごいな、と感じたことはありませんでしたし、僕自身も東京で会話していてなまりを指摘されたことはありません。

山梨の方言の特徴を挙げるとすれば、このなまりがほとんど見られないという点と、もう一つは(汚い、乱暴などとも言われますが)「語尾の豊富さ」にあると言えるでしょう。

  1. 〜ずら(食べるずら)
  2. 〜ら(食べるら)
  3. 〜け(食べるけ)
  4. 〜ちょ(食べちょ)
  5. 〜ちゃあ(食べちゃあ、食っちゃあ)
  6. 〜だか(食べるだか?)
  7. 〜さよ、〜さよお(食べるさよお)
  8. 〜し(食べろし)
  9. 〜じゃん(食べるじゃん)

山梨県民なら、どれも聞いたことがあったり若者でも日常的に使っているものばかりではないでしょうか。


以下、それぞれの「語尾」の意味や使い方を解説したいと思います。

①「食べるずら」は、「食べるでしょ?」と付加疑問文的に訊く意味と、「食べるだろう」という推量の意味とあり、アクセントの位置で使い分けます。

甲州弁「〜ずら」の意味甲州弁「〜ずら」の意味 山梨の方言である甲州弁は、語尾のボキャブラリーが豊富です。 この語尾の甲州弁で、頻繁に使用され、山梨を舞...

②「食べるら」も①とほとんど一緒ですが、ただ、ほんの少しだけ違いもあります。疑問文的な意味で使うときには、「〜ずら?」よりも「〜ら?」のほうが誘う度合いが高いです。

<A>「ご飯食べていくずら?」

<B>「ご飯食べていくら?」

この二つでは<B>のほうが、「当然〜するでしょ?(しようよ)」の度合いが若干強く、一方の<A>は、少し「確認」の要素もあります(*教科書がないのであくまで個人的な感覚です)。

推量で使う場合も、意識をしているわけではありませんが、確信(かくしん)の度合いで使い分けている気がします。

また、推量の際は最後に「に」や「ね」をつけることもありますが、これは標準語の「に」や「ね」(〜するだろうに、するだろうね)をそのまま加えているのかな、と思います。「寄っていくずらに」「寄っていくらに」「ほうずらに(そうでしょうに)」「ほうずらね」など。

③「食べるけ」は、「食べる?(どうする? どっちでもいいよ)」というニュアンスがあります(*後半部分は個人的な感覚です)。

④「食べちょ」は、「食べるな」という禁止の意味があります。「食べちょ」「言っちょ」「来ちょ」など割と強めの禁止です。

⑤「食べちゃあ」「食っちゃあ」など「〜ちゃあ」というのは、「〜ちょ」の否定とは逆に、「しようぜ!」という意味があります。ただ使用頻度は少なめ。

似たような意味合いでは、「〜ざあ」というのもあります。「さあ、行かざあ」で、意味は「さあ、行くぞ」に近いのですが、相手も一緒に、というニュアンスが強い言葉です。若者が使っているのは聞いたことがなく、ほんとにときどき祖母が使っていたかな、という印象です。

⑥「〜だか」、あるいは「〜け」をくっつけて「〜だけ」という言い方もします。「食べるだか?」「食べるだけ?」と質問のときに使い、意味は普通に「食べるの?」です。ただニュアンス的に、「食べないと思ってた」というのがある気がします。

「なんだ、起きてるだか?(起きてないと思ってたら予想外にも)」


「あれ、もう寝るだけ?(寝ないと思ってたら予想外にも)」

後者の「〜け」のほうが(ほんとに若干)おしとやかです。あと、「〜だ」単独で使う場合もあり、その場合は、質問ではなく、意思の主張です。「もうけえる(帰る)だ」「一生懸命やるだ」など。

由来は定かではありませんが、「の」抜き言葉と通じている気がします。

甲州弁にある「の」抜き言葉甲州弁にある「の」抜き言葉 僕は山梨で生まれ育ち、高校卒業後に東京に上京しました。不思議なもので県外で生活していると自然と方言が消え、...

⑦「〜さよ」「〜さよお」は、日本一ブサイクとも言われる甲州弁のなかでは一番可愛いと評判の語尾です。この「〜さよお」を使った「いいさよお」は、山梨県民が好きな甲州弁ランキングでも一位でした。

語尾につける「〜さ」というのも少し方言めいてはいる(頻繁に使う)のですが、さらに「よ」がついた「さよ」「さよお」はもう完全に山梨の方言です。

「(もちろん)〜に決まってるじゃないの」と言った意味になります。

たとえば、「行くさよ」「食べるさよお」「いいさよお」と使います。「いいさよお」は、優しい了解で、「お願いしてもいいけ?」「いいさよお」「悪いじゃんね」というのは山梨県民同士がもっとも思いやっているときの会話です。

ただ「さよお」自体に特にポジティブな意味があるわけではなく、「嫌さよお」「駄目さよお」と言うことも普通にあります。

⑧「〜し」は、よく分かりません。「食べろ」と「食べろし」のニュアンスの違いを考えてみたのですが、若干柔らかくする、くらいしか思いつきませんでした。支え棒的な言葉。

「〜し」は、「食べちょし」「言っちょし」など、「〜ちょ」のあとにも付きますが、他のあとには付きません(「〜ずらし」「〜けし」などとは言いません)。

⑨「〜じゃん」は、標準語でも普通に使いますが、甲州弁だと妙に登場回数が多いです。違いが言語化できない(混乱してきた)ので、他のサイトを参考にします。

共通語と甲州弁の「じゃん」は意味が違うのです。

共通語では「〜じゃん」=「〜だよね」「〜ですよね」という意味ですが、甲州弁では「〜しよう」「〜だよ」という意味で使われます。

出典 : 山梨は甲州弁のかわいい方言告白のセリフ10選

難しい…。

考えていたら混乱がいっそうひどくなってきて吐き気が……。どうやら僕はまだこの「〜じゃん」問題を克服できていなかったようです。

他のサイトも調べてみました(ちなみに山梨で売っている甲州弁の本『キャン・ユー・スピーク甲州弁?』には載っていませんでした)。

山梨の甲州弁という方言で使用されている「じゃん」は、またひと味違った「じゃん」です。山梨の人達は東京や神奈川に出て来たとき、「なんだ、こっちのひとも【じゃん】使ってる」と安心します。しかし使っていくにつれて、何かが違うことに気付いていきます。

出典 : 方言「じゃん」の地域別の意味と使い方|愛知/静岡/山梨/九州/北海道

心を見透かされているような導入部。

そうなんです、みんな使っているんだけど何かが違う。その違いとは、この記事によれば、「勧誘」かどうか。

山梨の方言の「〜じゃん」は、「〜じゃんね?」という言い方で、「〜でしょう?」「〜するよね」という意味で使われる、とのこと。

なるほど。

最初の記事と、後者の記事をまとめれば、「〜じゃん」は、甲州弁で「〜しよう」「〜だよ」「するよね」を意味します。

たとえば、「もう帰るじゃん」と言うと「帰ろう」というニュアンスになります。「へえ、(もう)行くじゃん!」とよく祖母が言っていましたが、これも、「(私も、あなたも)行くよ」といった勧誘のニュアンスが込められています。

これがもし、「(あなたが)行きなさい」と言いたい場合は、「行けし」になります(「行け」というのが強いので、「行けし」になります)。

加えて、「明日は祭りに行くじゃんね?」など、「〜じゃんね?」という使い方で、「行くでしょう?」となります。

もう一つ、「じゃん」の用法としては、「なかなか面白いことを言うじゃんけ」などといった使い方をすることもあります。

このときの「〜じゃん」は、標準語の「じゃん」に近い気がしますが、たぶん、甲州弁的な言葉だと思います。

この「じゃん」は、「あの子はほんとよけっこん(余計なこと)を言うじゃんね」など、語尾に「け」の代わりに「ね」を使うこともあります。「<A>よけっこんを言うじゃんね」と「<B>よけっこんを言うじゃんけ」も微妙なニュアンスの違いがあります。<A>のほうが相手に多少同意を求めています。

意味合い的には、どちらも「言うよね」ですが、この場合の「じゃん」は、「行くじゃん!」のときとは違い、言葉の意味自体はなく、「〜し」と同様、「柔らかくする」効果がある気がします。

ちなみに、「言うじゃんけ」の際の、「〜け」は一体どこから来たのでしょう。この「〜け」は③の質問的な「〜け?」とも意味合いが違います。

なんだか甲州弁の語尾地獄にはまってきたので、そろそろ「まとめ」に入りたいと思います。

まとめ

山梨の方言「甲州弁」の特徴としては、「なまりがない」ことと「語尾が豊富」ということが挙げられます。

最初で触れたように、山梨の喋り方にはイントネーションにそれほど標準語と差異がなく、子供の頃から祖父母と暮らしていましたが、祖父母にも自分自身にもほとんどなまりがないように思います。

もう一つが、「語尾が豊富」ということです。甲州弁はどんなのがある? と尋ねられると、大抵「語尾」を並べます。

またこの語尾がかもしだすニュアンスにも、結構面白い特徴がある気がします。

山梨県は、よく言えば大きな山に囲まれていて仲間意識が強く、悪く言えば排他的な県民性なので、その雰囲気が方言にも出ているのかもしれません。

有名な「〜ずら?」と言うのも、「当然〜するでしょ?」といったニュアンスが強いですし、「早く食べろし」や「行っちゃあ」など、ぐいぐい迫ってくる言葉が多い方言だと思います。

「一緒に行くずら?」

「一緒に行けし」

「一緒に行っちゃあ」

「一緒に行くじゃん」

とにかくぐいぐい来ます。だから、そのなかでは割と柔和でこっちに判断を委ねてくれる「一緒に行くけ?」が響きも含めて個人的には好きな「語尾」です。